症状改善プログラム

UCSFで開発されたThe Model of Symptom Management(MSM)を臨床の場に適用するために、看護活動モデル(The Integrated Approach to Symptom Management〈IASM〉:症状マネジメントの統合的アプローチ)が開発されました(Larson P.)。
このプログラムは、IASMをさらに現場で使うことができるように作成したガイドブックを使い、IASMにそって看護活動を行うことにより、看護師は患者の体験(症状)や行っている方略を正確に理解し、患者のセルフケア能力のレベルにあった知識、技術、看護サポートを提供することができます。
そして必然的に患者を中心としたマネジメントが実現されます。
このプログラムを使用するときはオレムのセルフケア理論、MSM、症状マネジメントの統合的アプローチ(IASM)をよく理解しておくことが必要です。

The Model of Symptom Managementの理論的前提

’症状(Symptom)’は元来その人が体験しているもので主観的なものです。症状のマネジメントは、患者自身が何らかのセルフケア行動を起こさない限り始まらないという側面を持っています。また、24時間その症状を体験している患者が、もっとも対応が熟練しているという側面も持っています。従って、患者を重要なケア提供者と見なすことは理にかなっているといえます。

The Model of Symptom Management (症状マネジメントモデル;MSM)はオレムのセルフケア理論をその背景にもったモデルです。患者のセルフケア能力に焦点を当て、その能力を最大限活かすことを前提にしています。

オレムのセルフケア理論では、看護者は患者がどのようなセルフケアレベルであっても、患者の持つセルフケア能力を正確に査定し、必要な代償を行います。例えば自分の生活調整を上手に行い、症状に対しても医師など医療専門職の援助を巧みに活用できる慢性疾患の患者は、セルフケア能力が高く、支持・教育のレベルであり、看護の介入はほとんど必要ではありません。一般的には身体機能が低下した状態ではセルフケア能力も低下すると考えられますが、必ずしもそうではない場合があります。自分で判断、決定し、医療者に専門的援助を要請できる患者はセルフケア能力が高く、知識や技術を持つことによってさらにその能力を高めることができます。また、症状を表現することを控えたり、我慢しなければと考えているなどセルフケア能力が低い患者には、潜在的なセルフケア能力を見いだし、それを高めるように援助したり、専門家が必要なことを代わって行ったりします。

The Model of Symptom ManagementThe Model of Symptom Management

TThe Model of Symptom Management (症状マネジメントモデル;MSM)は、人々の症状マネジメントが「症状の体験」「マネジメントの方略」「症状マネジメントの結果」の3つの大きな次元 から成り立っており、それぞれの概念は多くの要素 から構成されていることを明らかにしています。これらの3つの概念は相互に関連しあっており、患者の体験内容はその人が取る方略に影響し、その方略の結果は次の体験に影響するとしています。 MSMは、その後になって看護学の重要概念である「人間」「健康/病気」「環境」の影響をダイナミックに表現する工夫がなされ、修正されています。このモデルは、University of California San Franciscoの教員らによって研究と改良が続けられています。詳細は、https://nursing.ucsf.edu/biobehavioral-research-program-symptom-science をご参照ください。

表1 症状マネジメントモデルの3つの次元

3つの次元(dimension) 構成要素
症状の体験
(症状をどのように体験しているか)
症状の認知、症状の評価、症状への反応
症状マネジメントの方略
(症状に対してどのように取り組んでいるか)
なにを、いつ、どこで、なぜ、どれくらい、誰に対して、どのように *修正前のモデルでは、方略を提供する可能性のある人(患者、家族、医療提供者、保健医療サービス提供のしくみ)が構成要素となっていた。
症状マネジメントの結果
(症状への対処をした結果、症状とその周辺の状況がどのように変化しているか)
症状の状態、身体機能の状態、セルフケア能力、情緒の状態、経済状態(費用)、QOL、死亡率、罹患率と併存病 *修正前のモデルでは、8つの要素に加えて「ヘルスケアサービスの利用」が含まれている。

表2 症状マネジメントの3つの次元に影響を与える変数

変数 構成要素
人間 人口統計学的、心理的、社会的、身体的、発達的
環境 物理的環境、社会的環境、文化的環境
健康/病気 危険因子、健康状態、病気や傷病

MSMを看護活動として翻訳したものがDr. Larsonが提案したThe Integrated Approach to Symptom Management (症状マネジメントの統合的アプローチ: IASM)であり、さらにこれを現場で使うことができるようにワークシートとして開発したものがこのガイドブックです。IASMにそって看護活動を行うことにより、看護師は患者の体験(症状)を正確に理解し、専門家として科学的にメカニズムを明らかにしたり、妥当なマネジメントの方略を提供し、患者がもっとも良い方法を選ぶことができるように支援することができます。使用するときはオレムのセルフケア理論、MSM、症状マネジメントの統合的アプローチ(IASM)をよく理解しておくことが必要です。

臨床応用の前提

臨床応用の前提1

モデルの適応は患者の了解を得て始めます。

患者に質問をしながら行いますので、患者の利益になると同時に患者の負担になる場合もあることを、看護師はよく理解しておく必要があります。患者には、止めたいときはいつでも止めることができることを伝えます。もし、患者が途中で止めたいと言った時は、通常のケアに戻します。情報は一度に全部聞くのではなく、30分ぐらいずつ何日かに分けて行うほうがよいでしょう。患者と相談して計画的に進めます。

臨床応用の前提2

活動を始める前に医師の協力や看護チームのコンセンサスが得られるかどうか確認します。

「看護師が症状のある患者に対して、了解を得てこのような活動を行いたいと考えているが協力していただけるか(できれば一緒にやっていただきたいのですが)」と聞きます。医師には、専門家が提供するマネジメント方略の部分で薬剤の投与やブロックなどの医療処置を中心とした活動をお願いしたいと伝えます。医師を協力者にすることは、この活動を成功させる最大の秘訣です。医師を活動に巻き込むにはその施設独特の方略がある場合がありますので看護管理の担当者とよく相談します。また、看護チームのコンセンサスも重要です。24時間一貫したケアを提供するには、看護チームが同じ姿勢で関わることが必要です。対応の不統一によって患者の混乱を招かないためにも、IASMの効果を高めるためにも、チームでよく話し合い、了解を得ながらモデルによる看護活動を進めます。

臨床応用の前提3

患者の主体性を確認します。

患者が症状マネジメントの主役であることをどのように考えているか、症状コントロールの可能性をどのように認識しているか(どうせよくならないと考えていないか、コントロールすることに無力感を感じていないか)を確認することが必要です。必ずしも患者自身が常に自分が主役であるという意識を持つべきだという意味ではありません。そのような意識を持てない患者はセルフケア能力が低下していると判断し、医療者が全代償を行います。しかし潜在的には能力があるかも知れませんので刺激してみることは必要です。

臨床応用の前提4

症状マネジメントは患者にとってどの程度の優先順位であるかを確認します。

症状コントロールについて、それほど重要でないとか、我慢するものだと考えているなど、患者の価値評価を確認します。患者によっては、自分が過酷な症状に襲われているにもかかわらず症状マネジメントに興味を示さない人がいます。病気や死、家族、経済上の問題など、その人によって問題の優先順位は異なります。症状マネジメントが優先順位を持たない場合、患者の症状マネジメントに関するセルフケア能力は低く、患者に話を聞こうとしても出てこないなど、活動をはじめた時点で抵抗に合います。このような場合は看護師は全代償を行います。医療者の判断で症状のマネジメントを行い、身体機能が低下しないように努力し、患者にとって優先順位の高い問題に焦点を合わせます。

IASMの流れ

  • 1.症状の定義を明らかにする。
  • 2.症状のメカニズム(機序)と出現形態を理解する。
  • 3.患者の体験(知覚、評価、反応)とその意味を理解する。
  • 4.症状マネジメントの方略を明らかにする。
  • 5.体験と方略、その結果を明らかにし、セルフケア能力の状態で該当するレベルを判断する。
  • 6.看護師が提供する知識、技術、サポートの内容を決定し実施する。
  • 7.看護活動による効果を測定する。

表1.IASMの流れ

イメージ3

図3. 症状マネジメントのための統合的アプローチ(IASM)

出版物(学会や雑誌など)に引用する方法

このガイドブックを引用なさるときは「unpublished」もしくは「未出版」と付記してください。

① IASMが最初に発表されたのは下記の文献です。

Patricia J. Larson, Atsuko Uchinuno, Shigeko Izumi, Ayako Kawano, Akiko Takemoto, Miyuki Shigeno,
Masumi Yamamoto, Shuko Shibata(1999)
An Integrated Approach to Symptom Management
Nursing & Health Sciences Vol.1 No.4 203-210

 

② 「IASMによる看護活動ガイドブック」の最初の発表は下記の文献です

・ 内布敦子他(1998):The Integrated Approach to Symptom Managementを応用した看護活動ガイドブック:別冊ナーシングトゥデイ12 173-184

・内布敦子他(1999): Integrated Approach to Symptom ManagementIASMについて(1)IASM のための記録用紙・分析スタンダードの開発:がん看護 4(5)  414- 417

追加情報

内布敦子(2014)系統看護学講座専門分野Ⅱ成人看護学〔1〕成人看護学総論 第14版 12章に詳細の使用方法を解説していますのでご参照下さい。
図などを引用なさるときは原典をお書き頂きますようお願い致します。ちなみに翻訳を引用する場合は原典も示す必要があると思います。

③ A Model for Symptom Managementが最初に発表されたのは下記の文献です。

・Larson P.J., Carrieri-Kohlman V., Dodd M.J., Douglas M., Faucett J., Froelicher E., Gortner S., Halliburton P., Janson S., Lee K.A., Miaskowski C., Savedra M., Stotts N., Taylor D. & Underwood P. (1994) A model for symptom management. Image Journal of Nursing Scholarship 26(4), 272–276.

上記のモデルを訳したものは下記のテキストにあります。
内布敦子(2014)系統看護学講座専門分野Ⅱ成人看護学〔1〕成人看護学総論 第14版 12章 P324 に翻訳引用がのっています。

④ ③の改変版Reversed Symptom Management Conceptual Modelは下記の文献です。

・M Dodd et al.(2001)  Advancing the science of symptom management Journal of Advanced Nursing 33(5) 668-676

その翻訳版は下記のテキストにあります。
内布敦子(2014)系統看護学講座専門分野Ⅱ成人看護学〔1〕成人看護学総論 第14版 12章 P325 に翻訳引用がのっています